コンサルティングの現場でクライアント企業の業務(とも認識されていない定型的な作業含む)に対して、「標準的なプロセスを整備すれば良いのに・・・。」と思うことが結構あります。
今回は、コンサルティングの現場で考えた「業務標準化を図ることで得られる効率」と業務の標準化によるデメリット例として「失敗や反省から、気付き・学びを得る機会」を失うことについて記事にしたいと思います。
業務標準化のメリットとは
業務標準化の是非を問うお題として取り上げるのは「資料作成のプロセス」です。
例えば経営会議に附議する事項やその背景をまとめた資料を作ることは、(形式は異なれ)どの企業でも存在するでしょう。
でも、そのプロセスが標準化されているかというと案外整備されていないものなのです。
ここで申し上げるプロセスというのは、部署内でのドラフト資料作成までのプロセスになります。
経営層に報告する前に、部署内でのレビュー工程を挟むことが多いと思います。
問題は、部署の外に出る前にある「部署の内」での資料作成とレビューのプロセスです。
部署内でのドラフト資料作成というプロセスのゴールは、部長に対して全体的なストーリーラインや資料で用いる図表のイメージについて承認を得るものとします。
大まかなストーリーラインや図表イメージを合意したうえで、細かい中身の作成に入るのが効率的な進め方ですよね。
しかし、いきなりパワーポイントで資料を作り始めてしまう人もいます。
実際にコンサルティングで支援しているクライアント企業であった事例ではありますが、部長はワードや手書きのラフスケッチで全体感を合意することを先に求めていました。
しかし、担当者は手元にある素材(これまで作成した資料や図表)を寄せ集めて、それっぽくストーリーラインを作り上げて、部長にぶつかっていきました。
結果的には、ストーリーラインは大きく変わるものではなく、手戻りやプロジェクト遅延に影響を及ぼすことはなかったのですが、ここで思いました。
「部内で資料レビューをもらうという小さな業務においても、標準的なプロセスを定義しないと、無駄が発生するリスクは潜在的に存在する。簡単にパワポ1枚で部内承認を得るまでのプロセスを描くか。」
特にクライアントから依頼されたわけでもなく、かつ、部内における資料レビューのプロセス定義であれば「片手間」で可能な範囲なので、ボランティア精神で以下をまとめました。
- 部内承認までのプロセス
- プロセス毎のゴール
- プロセスで用いる資料フォーマット
これらをセットで体系化しました。
一応、クライアントの部長にも御見せしました。
「最初のストーリーライン合意の段階ではワードやメモ帳での会話を必須と定義してしまっても良いかもしれませんね。」
ともお伝えしました。
すると、部長からは視座の高い一言が。
「ありがとうございます。ただ、失敗や反省から自ら学び、成長する機会を奪ってしまうことにも繋がるので、悩ましいですね・・・。」
このようなご発言がありました。
コンサルティングの仕事をしていると、フレームで固めてしまいたくなる職業病のようなものがあります。
標準化や効率化が、とても素晴らしく価値の高いものであるように思いこんでしまう。
標準的なプロセスを定義するということは、工夫の余地や学びを得る機会を失ってしまうかもしれません。
それは確かに良くないことです。
業務標準化によるデメリットも長い目ではトレードオン
一方で、過去の人間が学び得た知恵を後世に残し、組織が進化していく過程で「標準化」は必要な要素でもあります。
先輩が行った過ちや無駄を後輩が犯さないように整備をして、後輩たちは更に高度で高価値な問題解決に取り組む時間や余裕を作り上げていくことも大事だと考えています。
整備したその道を歩む後輩も、未踏の地に足を踏み入れる機会は必ずあるでしょう。
未踏の地を開拓する過程で否が応でも、失敗をして、学びを得て、成長するでしょう。
むしろ、学びの機会を与えているつもりで、一定の自由度を与えること(プロセス未整備・放任主義)は、「学びを得ることのできなかった人材を生み出すリスク」も組織に埋め込みます。
学びを得られなかった人材が年次的に中間管理職になったとき、組織は弱体化する可能性が高くなってしまいます。
正解を与えることは、創造力・改善力を鍛え上げる機会を失ってしまう。
これも一理あります。
ビジネスは、学校のテストとは異なります。
正解を創り上げていく姿勢が求められます。
その姿勢を学ぶ機会を得るべき場とそうでない場を、しっかりと考えていくべきなんですね。
競争力に繋がらない部分は徹底的に効率化したり、アウトソースすることは企業経営でも 当然に行われています。
人材育成と業務プロセスの標準化も同じで、一見するとトレードオフ。
でも長い目で見ると、トレードオンだと思います。